『ドラえもん』ののび太は、読書に強いアレルギーをもつ。彼は活字の多い本を読もうとすると、手にとっただけで気が重くなり、ページをめくると頭がズキンとし、2・3行読むと目が回り、1ページも読まないうちに眠ってしまう。彼のような小学生が「読解力をつけたい」と願ったときに、「とにかく本を読みなさい」という教えは有効だろうか。
のび太は極端な例だとしても、(児童・生徒として)読解力を身につけたい、(教師・保護者として)読解力を育てたい、と願うものの方法がわからない、という人は多くいるだろう。犬塚美輪『生きる力を身につける 14歳からの読解力教室』(笠間書院、2020年)は、「『本をたくさん読む』のではないアプローチで読解力を鍛える」(p.111)戦略を教えてくれる本である。
この本は、「読解力はなぜ必要なのか」「読解力はどうすれば身につくのか」といった問いに、人が新しいものごとを学ぶしくみ(認知心理学)の視点から迫る一冊である。
章立ては下記の通り。
Ⅰ 「読む」とはどういうことか
第1章 読解力は必要か
第2章 なんで「読めない」の?
第3章 暗記と理解はどう違う?
第4章 忘れてしまうのはなぜ?
Ⅱ 読解力を高めよう
第5章 読解力向上のためには「たくさん本を読む」しかないの?
第6章 マンガはやっぱりダメですか?
第7章 図とかイラストを増やしてほしい?
第8章 読解力は一人で鍛えるモノ?
Ⅲ 「読む」だけが読解じゃない
第9章 書いてあることは本当?
第10章 先入観はなくせる?
第11章 主観は排して読まねばならない!?
第12章 結局のところ読解力ってなに?
Ⅰ(1〜4章)では、認知心理学の知見を用い、人が新しいものごとを学ぶプロセスについて理解を深める。Ⅱ(5〜8章)では、読解力向上の鍵が「方略」(読み方)にあることを示したうえで、マンガや図・イラストといった、「文字が多い本」以外のメディアがもつ長所・短所を分析する。Ⅲ(9〜12章)では、客観的な読解を行うためのノウハウを紹介する。
本書の注目すべき点は、読解力を「方略」(読み方、読むための戦略)の視点から論じていることである。
著者は、読解力をつけるには「方略」が重要である、という。
(引用始)
読解=読んで分かる、というためには言葉と言葉のつながり(命題)を自分で作っていかなくてはならないんです。簡単な内容やよく知っている内容ならあんまり頭を使わないでも「なんとなく」つながってくれますけど、「自分の知識を増やす」とか「知らないことを学ぶ」ために読む場合には、自分にとって難しい内容を読むわけですから、しっかり頭を使って頑張らないとつながってくれないんですね。/ですから、重要なのは「読み方」を憶えることです。(中略)読んで分かるような戦略を使いながら読むことで、内容がよりよく分かる、分かれば面白くなる、というわけです。(p.113-114)
(引用終)
そして著者は、この引用に続く部分で、読解力を向上させる方略を紹介している。明日からでも国語の授業の予習・復習に使えそうな、具体的かつ実行しやすいノウハウである。その中身はぜひ、この本を読んで確かめてほしい。
また、第3章・第4章では、「どうすれば知識を効率よく覚えられるのか」「どうすれば覚えた知識を忘れずにいられるのか」といった問いに、人間がものごとを記憶するプロセスを基に答えている。この部分で示される知見は、「暗記科目」の試験対策など、知識を覚えることが必要な場面にも役立つだろう。
この本は、学ぶ人にとっては勉強法の、教える人にとっては指導法の指針になる。ぜひこの本を「読み」、楽しくかつ役に立つ「方略」を学んでほしい。
(藤崎 尊文)