「そのコのどこが好きなの?」
いや、そんなこと聞かれましても。性格? 外見? 馴れ初め? どれも言葉にするとありきたりだなあ。好きなんだから、好きなの。え、答えになっていない? 困ったなあ。
その「コ」は自分が好きな「もの・こと」、あるいは「推し」に置き換えてもいい。好きの理由は、言葉にしにくい。言葉にできないのは、語彙が少ないからか。それとも、愛が足りないからか。
大丈夫、言葉にできなくたっていい。むしろ、言葉にしないほうがいい。好きの理由に口ごもる私たちを、そう励ましてくれる歌がある。その名も「無言の宇宙」(※1)だ。
この曲の歌詞には、かなり多くの言葉が詰め込まれている。
愛を少しでも語り始めてしまったら
「愛してる」その真剣な気持ちは
心から漏れていくものだ
知らぬうち熱が逃げちゃうように
もうお互いに感じなくなる
客観的になってものを見るからだろう?
大切なものがなぜ大切なのか
考えたって何になる?
僕は君を理由なく好きだ
引用元:「無言の宇宙」櫻坂46
この1節で、ようやくサビ1回分である。歌っているというよりも、伝えたいことを何とか理解してもらおうと、言葉を尽くして語りかけているように聞こえる。そのこと自体が言葉の限界を示している。歌としての体裁を保てる程度に言葉を詰め込んでも、「愛」の何たるかを説明しきることはできない。
しかし、それでいい。
何かを語るということは、相手に伝わるように語句やその並べ方を考え発信することである。自分の内側にある主観的なものを他者に語る。その時点で、愛は自分の外側に出た、客観的なものになってしまう。どこまでも主観的な、言葉にならないもののまま、自分の心に留めておくべきこともある。
静寂は美しい
音が消えた世界は
愛の脈が打ち続ける鼓動が響く
瞼を閉じろ!
引用元:「無言の宇宙」櫻坂46
言葉にすることで失われるもの。言葉にしないことで生まれるもの。
その両方があることを、「無言の宇宙」は私たちに教えてくれる。
(藤崎 尊文)
(注)
(※1)櫻坂46「無言の宇宙」(SONY Music Labels、2021年)。
作詞:秋元康 作曲:barbora, TomoLow 編曲:TomoLow 歌:櫻坂46