絵心のない私がギャラリーに通っている理由(わけ)

 昔の殿様は横になって作品を眺めていたんだよ

 10年ほど前、ある交流会で知り合いになったアートディレクターさんからの紹介でギャラリーに出かけた。その際に彼から言われた言葉に従い、実際に横になって絵画を見た。確かに下から見る作品は、正面から見るのと同じ作品かと思うくらい違いがあることに気付いた。

 その姿を見ていて後日「この話をして本当にやる奴がいるとは思わなかった」とも言われたのだが…。

 ギャラリーに通っているうちに、気付けば絵画を購入するという立場にまでなっていた。
 改めて自分の家に飾っている作品を眺めてみた。購入した時の自分自身の心境について考えると共に、今の自分自身のとの違いについて気付く機会にもなっている。

 今でこそ休みの日に時間が取れればギャラリーに通うようになった私であるが、彼と出会うまでは「絵画」と言えば苦手意識が強く、絵心がないタイプの人間だった。

 小学生の頃は、絵の具がひび割れるくらいベタベタに塗った作品や、何を描いているのかわからないような作品を描いていて、とても人に見てもらえるような作品ではなかった。そして、教室に掲示されているのを見た母親からは授業参観で行くといつもあなたの作品を見るのが恥ずかしいと嘆くのを聞いては落ち込み、自分でもあまりの下手さ加減に辟易していた。

 中学生になってからも実技は相変わらず酷い状態で、知識を問われる期末試験で内申書に大きな損害を与えずに何とか志望していた高校に入学することができたくらいのレベルである。  
 高校は本来「選択科目」なのだが、私が通っていた高校では2年生の時に美術が必修科目であった。ただでさえ嫌いな科目なのに、さらに自分の思想を押し付けてくるタイプの先生だったこともあり、美術自体が嫌いを通り越して苦痛な時間だった。
 もちろん親と一緒に美術館やギャラリーに行った思い出も皆無に近いし、社会人になってからもお金を払ってまで絵画を見に行こうと思うこともほとんどなかった。

 それでも、デパートのギャラリーに立ち寄ること自体は嫌いではなかった。例えば吉田照美さんの個展を見るために池袋東武百貨店にも訪れたことがある。その時は絵画だけでなく彼のトークショーを観るという「もう一つの目的」もあったのだが…。

 ある日SNSで知り合いになった方からの紹介でデパートのギャラリーに出かけたことがあった。その時に店員さんが近寄ってきて、「絵画を買いませんか」と声をかけてきた。私にとっては手の出ない金額(その金額が妥当かそもそも作品の価値がわからない)なので断ろうとしたところ、あまりに執拗に勧誘してくるので耐え切れなくなって私はその場から逃げ出さざるを得なかった。

 しかし、彼が主催するギャラリーに通うようになってからは見る角度が変わった。

 もちろん絵画を売るというのは彼にとっては大事なはずなのだが、あまり買う気のない私にも分け隔てなく接してくれた。買わなくても特に文句も言われず、絵画を鑑賞する方法を教えてくれたり、作家さんがいる時には作品についての解説を聞いたり、作品とは全く関係のない雑談をしたりと「交流」するための時間になったのである。

 彼の言われるままに寝転がったことから絵画に対する考え方が変わったのである。

(茅根 康義)

   

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