皆さんは「話し言葉」と「書き言葉」の特徴と違いを適切に使い分けることができていますか?今回は「話し言葉」と「書き言葉」の違いをテーマに、注意点を踏まえて解説していきます。伝わりやすい文章を書くためには適切な「書き言葉」と状況に沿った「話し言葉」の使い分けがポイントです。日常のコミュニケーションを振り返り、小論文作成や就職活動にお役立てください。
1.「話し言葉」と「書き言葉」それぞれの特徴について
「話し言葉」は、日常会話で使用される言葉のことを指し、「口語」とも呼ばれています。「話し言葉」は、円滑なコミュニケーションを目的として使用されるため、以下のような特徴があります。
1-1.「話し言葉」の特徴
- 柔らかい印象を与える表現が多い
- 倒置や語の省略がされる
- 方言が使用されることもある
- 「まぁ」「あぁ」などの感嘆詞が使用される
対して、「書き言葉」は、ビジネスや公的文書などのフォーマルなシーンで使用される言葉であり、「文語」とも呼ばれています。「書き言葉」は、正確な情報の伝達を目的として使用されるため、以下のような特徴があります。
1-2.「書き言葉」の特徴
- 硬い印象を与える表現が多い
- 文法に則って書かれ、倒置や語の省略はされない
- 方言は使用されない
伝える内容は同じでもどちらの言葉を使用するかで、印象ががらりと変わります。
1-3.「話し言葉」と「書き言葉」が与える印象と表現方法の違い
<例1>
話し言葉:すごい疲れてたから、ちょっと早めに寝たんだ。
書き言葉:私は非常に疲れていたので、少し早めに寝た。
<例1>の話し言葉は、友人や家族など親しい関係性の相手との会話の情景が目に浮かびます。一方、書き言葉は大衆に向けたような端的な表現で日記や小説の一節のような印象を与えます。
<例2>
話し言葉:いま見ているホームページから、資料をダウンロードできます。
書き言葉:現在ご覧いただいているホームページより、資料のダウンロードが可能です。
<例2>の話し言葉は、社内の同僚や上司との会話の風景を想像することができます。一方、書き言葉は社外の方やお客様と会話している印象を与えます。
このように、「話し言葉」と「書き言葉」は状況に沿って適切に使用することがコミュニケーションを取るうえで重要です。両者の特徴をしっかりと把握し、以下のようにシーンや目的に合わせて使い分けられるようにしましょう。
●Point 「話し言葉」と「書き言葉」それぞれ適切な使用場面
【「話し言葉」を使う適切な場面】
- 他愛のない会話
- SNS
- 個人ブログ
- 個人間でのメール
- スピーチ
- 広告、キャッチコピー など
➔情報を伝えたい相手が明確な場合や共感を得たい場面。
【「書き言葉」を使う適切な場面】
- 論文
- 小論文
- エントリーシート
- 新聞記事
- ビジネスメール
- ビジネス文書
➔不特定多数の方へ正確な情報を伝えたい公的な場面。
2.日本語の変化と「書き言葉」の歴史
現代の日本語は時代の流れとともに変化してきています。昔の日本語は現代と全く異なるものでした。ここでは、特に変化が顕著である「書き言葉」の歴史についてご説明していきます。
2-1.明治時代の文章と口語体の確立
明治時代の初期まで「話し言葉」と「書き言葉」の乖離は、現代よりもかなり大きいものでした。たとえば、森鴎外の『舞姫』の冒頭は以下のように始まります。
“石炭をば早や積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと静にて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり。”
【引用元:青空文庫『舞姫』より】
上記の作品は、中学校や高校で学習した古文を思い出す方も多いのではないでしょうか。このように、平安時代に確立した文語文法で書かれた文章を「文語体」と呼びます。明治時代初期まで、文章を書く時は文語体を使っていました。
しかし、奥ゆかしく難解な文語体は、時代で変化していく話し言葉と次第にかけ離れていきます。そこで、明治20年頃から始まった「言文一致運動」により、「話し言葉」と「書き言葉」が統一されました。このことから、昔の書き言葉と現代の書き言葉は別のものをさしており、現代の書き言葉は「口語体(現代の話し言葉に基づく文章形式)の書き言葉」ということができます。
以上のように、「言葉」は社会の影響を受けて変化していくものです。2021年に三省堂国語辞典が全面改定されるなど、現在も日本語は変わり続けています。そのため、わかりやすい文章を書くためには、時代に合わせた言葉を使うことが必要です。しかし、現代の日常生活で使用されている言葉なら問題ないということではありません。以下のように、相手に意味は通じても、文法的には誤りとなってしまう表現もあるため注意しましょう。
2-2.誤った日本語と正しい話し言葉の使い方3例
日本語は特に送り仮名の使い方が難しいとされています。今回、代表的な日本語の誤用について例文を3つご紹介します。日本語の正しい作法をチェックし、自分が日頃から発する言葉を確認してみましょう。
【NG①ら抜き言葉】
✕17時までには、仕事を抜けれると思います。
⇩
〇17時までには、仕事を抜けられると思います。
【NG②さ入れ言葉】
✕鈴木さんの代わりにコメントを読まさせていただきます。
⇩
〇鈴木さんの代わりにコメントを読ませていただきます。
【NG③い抜き言葉】
✕ご近所さんから果物をいただき、早速子どもが食べてます。
⇩
〇ご近所さんから果物をいただき、早速子どもが食べています。
2-3.基本的な話し言葉「敬語」3種類
普段、皆さんは目上の方や初対面の方とお話しする際に言葉遣いに気を付けていますか?日本では基本的に「敬語」を使うことが多いのではないでしょうか。「敬語」は相手を敬っている気持ちを言葉に表現できる方法のひとつです。正しい敬語を使えるようになることで、コミュニケーションスキルを高めて対人関係を良好に築くことができます。ここでは、敬語3種類と注意すべき敬語をまとめました。
Point ≪基本の敬語≫
- 「尊敬語」:相手を持ち上げて、自分より上位の存在として敬う表現方法
- 「謙譲語」:自分を下げて相対的に敬意を表明する方法
- 「丁寧語」:相手に対して丁寧に直接的な経緯を表現する方法
①「尊敬語」【敬語レベル:強】
相対的に立場が上であることを伝えます。相手を主語とした動詞も尊敬語に含まれます。
(例)「お客様」「御社」「いらっしゃる」「召し上がる」「くださる」「られる」など
②「謙譲語」【敬語レベル:中】
自分を主語にへりくだる表現方法です。
(例)「いただく」「申し上げる」「伺う」「弊社」「手前ども」など
③「丁寧語」【敬語レベル:弱】
敬語の中では最も気軽さを持つ表現方法です。品位を加えて美化した言葉も丁寧語のひとつとされています。
(例)「〜です」「〜ます」「お食事」「ご飯」「おいしい」など
このように敬語は3種類あります。結婚式には正装で参列するように、言葉遣いもTPOを考慮することが重要です。下記に、公的な場である就職活動で就職活動で必須の相手(志望先)の表現方法を一覧にまとめました。
Point ≪就職活動や公務員試験での志望先の表現方法一覧≫
【書き言葉】:主に履歴書作成時
「御社」 | 一般企業など |
「御院・御法人・御会」 | 病院、医療法人□□会など |
「御学園・御学校」 | 学校法人□□学園、学校法人□□学校など |
「御所・御庁」 | 市役所、都道府県庁など |
【話し言葉】:主に面接時
「貴社」 | 一般企業など |
「貴院・貴法人・貴会」 | 病院、医療法人□□会など |
「貴学園・貴学校」 | 学校法人□□学園、学校法人□□学校など |
「貴所・貴庁」 | 市役所、都道府県庁など |
➔商談などビジネスの場では、自分の会社や立場をへりくだる表現をします。
(例)「弊社」、「当社」、「私ども」、「手前ども」など
2-4.よく間違えがちな「二重敬語」
よく間違えてしまう敬語として「二重敬語」があります。二重敬語とは、ひとつの言葉に同じ種類の敬語を入れた言葉遣いのことです。敬語は、上記の3種類を軸にルールがあるのです。敬語を重複させないように正しい知識を身につけましょう。
【例 「おっしゃる」の二重敬語】
✕社長が今年の抱負を「おっしゃられる」
⇩「おっしゃる」と「られる」は尊敬語が重複しているため誤り
〇社長が今年の抱負を「おっしゃる」。
【例 「召し上がる」の二重敬語】
✕社長がステーキをお召し上がりになられました。
⇩「召し上がる」と「お~になる」は尊敬語が重複しているため誤り
〇社長がステーキをお召し上がりになりました。
「敬語」は、ビジネスの場で基本事項として求められます。正しい敬語のルールを知ることは、ビジネスメールの書き方としても活用できます。正しい敬語を使うことは相手と信頼関係をスムーズに築くことができます。
この章では、「話し言葉」と「書き言葉」の特徴や使用する際に注意が必要なポイントを解説してきました。言葉遣いは人となりを表すともいわれます。相手に好印象を持たれるように日頃から言葉遣いを見直し、敬語を正しく使い分けられるように心がけましょう。
3.「書き言葉」の使い方について(良い例/悪い例)
最後に伝わりやすい文章を書くためのコツを3つお伝えしていきます。
3-1.コツ①こそあど言葉を適切に使用する
「こそあど言葉」が何を示すのかが相手に伝わらないと、目的を果たすことができません。「こそあど」は、数学で例えると「x,y」です。つまり、文章において「x(これ)」や「y(それ)」が具体的に何を指し示すのかが伝わるように考えて使う必要があります。
ここでは、「こそあど言葉(これ・それ・あれ・どれ)」の悪い例と良い例を挙げていきます。
<悪い例1> 「こそあど言葉」を使いすぎた場合の会話
友人A「ねぇ、あれ取って!」→指し示す対象物が不明瞭
友人B「あれって何のこと?」→指し示された不明瞭な対象物を再確認
友人A「あそこにあるあれ!」→指し示す対象と該当する場所が不明瞭
友人B「…どこにあるそれ?」→不明瞭な指し示す対象に加え、該当する場所も不明瞭
「こそあど言葉」でしっかり事象を指示しないと意図や意味が相手に全く通じません。また、「こそあど言葉」を一切使用しない場合も回りくどい言い回しになってしまい、適切とはいえません。以下の<悪い例2>と<良い例3>を比較してみましょう。
<悪い例2> 「こそあど言葉」を一切使用しない場合の会話
友人A「ねぇ、私の部屋の机の上に赤いボールペンがあるのね。私の部屋の机の上にある赤いボールペン取ってきてくれない?」
友人B「あなたの部屋の机の上にある赤いボールペンを取ってくればいいのね。」
⇩
<良い例3> 適切に「こそあど言葉」を使用した会話
友人A「ねぇ、私の部屋の机の上に赤いボールペンがあるのね。それ取ってきてくれない?」
友人B「そのボールペンを取ってくればいいのね。」
<悪い例2>は少々回りくどいと感じるのではないでしょうか。<良い例3>のように、「こそあど言葉」を適切に使うことで、指し示す事象が明確になり、分かりやすい文章へと近づきます。
皆さんが一度は目にしたことのある日本国憲法前文は「こそあど」が何を指し示すのかを考えるのにいいトレーニング材料となるでしょう。「こそあど言葉」は多すぎても少なすぎても、読み手や聞き手は意図が汲みにくく、分かりづらいと感じます。「こそあど言葉」と出会った時は何を指し示しているのかを考え、適切に使用できるようにしましょう。
3-2.コツ②一文は短く、一文一義で。接続助詞「が」は使わない
「こそあど言葉」の多用や不足と同様に、一文が長くなればなるほど、読者の脳に大きく負担がかかります。大きい負担は、読み手や聞き手にストレスを与えてしまいます。
<悪い例4> 一文に複数の内容が入っている文章
私が感じていることは、たとえ翻訳機器が発達しても、外国語を学ぶことは必要で、言葉を話すということは、コミュニケーションの成立だけが目的ではなくて、相手に寄り添おうとする姿勢を見せることができるから、実際海外旅行に行った際、日本語で話しかけられるとうれしかったから、やはり大切だと思う。
⇩
<良い例5> 悪い例4の書き直し例
たとえ翻訳機器が発達しても、外国語を学ぶことは必要である。なぜなら、言葉を話すこということは、コミュニケーションの成立だけが目的ではないからだ。相手に寄り添おうとする姿勢を見せられるという側面も重要なのである。実際に、私が海外旅行に行った際、日本語で話しかけられるとうれしかった。そのため、やはり外国語を学ぶべきである。
<悪い例4>のように、一文に複数の内容を入れようとすると、主語と述語が一致していなかったり、副詞が修飾する箇所が不明確になったりと非常に読みづらい文章になってしまいます。
そのため、「一文一義(=一つの文で一つのことをいう)」で、短い文の積み重ねで文章を組み立てていくことが重要です。<良い例5>のように書き直すと、読みやすくなります。
また、接続助詞の「が」は、文をどんどん長くしてしまいます。
<悪い例6> 「が」を多用している文章
たしかに外国語の習得には時間がかかるが、継続して勉強時間を確保するのも大変だが、通学時間など隙間時間を活用して学習を続けたい。
⇩
<良い例7> 悪い例6の書き直し例
たしかに外国語の習得には時間がかかる。継続して勉強時間を確保するのも大変である。しかし、それでも通学時間など隙間時間を活用して学習を続けたい。
<悪い例6>の文章は一文が長くなっているために、読みづらく何を伝えたいのかがわかりにくい文章になってしまっています。「が」は多用しないようにしましょう。<良い例7>のように、一文をなるべく短くし、一つの文で一つのことを伝えるようにすることで、わかりやすい文章となります。文章は一文一義でまとめると、伝わりやすさは格段に上がります。
3-3.コツ③接続詞を積極的に使用する
接続詞は、文と文を繋ぐ役割を担っている言葉です。そして、ただ繋ぐだけでなく、文と文の関係性を明確にする役割もあるため、接続詞があることで伝わりやすい文章になります。
<悪い例8> 接続詞の使用がない文章
昨今、多くの企業でリモートワークが可能となった。公共交通機関の混雑が緩和され、通勤に対するストレスは減少した。労働者のストレスが全くなくなったわけではない。プライベートと仕事の切り替え難しく、気分転換がしにくくなったことなどが挙げられる。
⇩
<良い例9> 悪い例8の書き直し例
昨今、多くの企業でリモートワークが可能となった。そのため、公共交通機関の混雑が緩和され、通勤に対するストレスは減少した。しかし、労働者のストレスが全くなくなったわけではない。たとえば、プライベートと仕事の切り替え難しく、気分転換がしにくくなったことなどが挙げられる。
このように、「しかし」の後は前の文と反対の内容にする、「たとえば」のあとは、具体例にするなど、接続詞から読み手は次の文の内容を予想することができます。読み手のストレスを減らして、正確に意図が伝わる文章を目指しましょう。
4.まとめ【「話し言葉」と「書き言葉」の特徴を知り、適切に使い分けよう】
今回の記事では、日本語の歴史と「書き言葉」の適切な使い方を中心にお伝えしました。それぞれの特徴を理解し、日本語を正しく使い分けることでより伝わりやすい文章を書けるようになります。文章を書く目的を明確にして、適切な言葉遣いを選択できるように学習していきましょう。
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