あの虹を渡って~ワールドカップ体験記【完結編】

(2022年のまえがき)

 日本と韓国の「共催」となった2002年ワールドカップは2002年6月30日に横浜でドイツvsブラジル戦が行われ、2-0でブラジルが勝って優勝しました。
 あの当時のメンバーで今も現役を続けているのは小野伸二選手だけとなり、あの時の選手たちは指導者、あるいは解説者として今でも活躍されています。そして、森島寛晃選手はJ1セレッソ大阪社長という時代になりました。

 そして今年冬にはドバイで開催されます。

 2002年にワールドカップが開催されていた頃に小学生だった選手たちが主力となるチームがどんな活躍を魅せるのか。これからも楽しみに見ていきたいと思います。

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(ここからが本編)

 ワールドカップ旅行記もいよいよカシマスタジアム最終戦へと突入します。

 なかなか試合に入らない展開でじれったい部分も多いかと思いますが、またしばらくおつき合いのほどをよろしくお願いします。

 それでは始めていきたいと思います。

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 第3部 イタリアvsクロアチア戦
     6月8日 土曜日

「この携帯から電話をかけることができません」

 といったメッセージが私の携帯画面に突如出てきた。

「故障したのかな…」
 正直、私は携帯が壊れたのかと思って焦っていた。

 前日のお昼のこと。

 ドイツvsアイルランドでワールドカップ生観戦の余韻が覚めやらない私は、昼休みの時間を使って何とか「イタリアvsクロアチア戦」のチケットを取れないか…と思い、何度も何度も携帯からのチャレンジを試みた。

 職場の人達も気付いたらしく、
「電話予約やっているんだ…」
「何だか難しそうだな…」

 いろいろと声をかけられた。

 始まってから20分位経過しただろうか。
 ずっと、「今おかけになった番号は…」の状態になっていたかと思ったら、いつの間にか携帯から電話自体ができない状態にまでなっていた。

「これでチケットは取れないな…」

 その時点で諦めざるをえなかった。

 後で知った話だが、どうやらチケットが一部電話予約になったことで携帯からアクセスする人が殺到し、ついには回線自体がパンクしたらしい。

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「今回は~」と言うべきか「今回も~」と言うべきか。
 やはり起こってしまった「チケット問題」。

「どこが悪い…」という話はここでは置いといて、カシマスタジアムでの初戦「アイルランドvsナイジェリア戦」の時には数多くの空席があった。

 鹿嶋市役所でのパブリックビューイングを観ていた観客の中でも、それに対して文句を言っている人達が何人かいた。

 そして、電話予約ができるようになってからの「ドイツvsアイルランド」戦でもやはりバックスタンドの真ん中付近に空席があった。

 ゴール裏から眺めていて憤りを感じずにはいられなかった。

 確かに予選リーグだ空席があっても仕方ない部分もあるのかもしれないが、その一方で「欲しくても買えない…」という人達も数多くいたはず。

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 でも、チケットを持っている人のところには結構あったらしく、私の仕事での関係者でやはりサッカー好きな人がいて、アルゼンチンvsナイジェリア戦を観に行った人がいる。

 その人と話をしていた時に、
「31日にこっちに来ていたらチケット余っていたから売ったのに…」

 と言われたことを思い出した。
 正直、私は愕然とした。

「え、チケットあったの…!?」

 でも、終わってから言われても後の祭り。
 凄くくやしい気分だった。

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 いよいよ8日の朝を迎えた。
 今日も梅雨入り前のピーカンのお天気。

 しかも、前日のアルゼンチンvsイングランド戦を朝からビデオで観ていて意地と意地のぶつかり合いをヒシヒシと感じた。

 あのカシマスタジアムで観た「アルゼンチン」とは別なチームのようだった。

 その余韻に浸りながら、
「今日はどうすっかな…」

 正直、今日はテレビで見ようかな…と思っていた。

 しかし、途中で思い直して慌てて準備をした。
 そして、時間が無かったので今回はお昼を食べずに出発することにしたのである。

 1週間ぶりの水戸駅。
 昼下がりということもあって、本当に暑い。
 ムシムシするような暑さだ。
 ジッとしているだけで汗が吹き出してくる。

 大洗鹿島線のホームには、今日も数多くのワールドカップを観戦する人達で賑わっていた。

 アルゼンチン戦とは違うのは、やはり女性が多いってことだろうか。

 イタリア代表と言えば、トッティ選手を始めとして女性に人気がある選手が多い。
 水戸駅のホームを見た限りではやはりイタリア代表を応援する人達の方が多いのかな…といった感じがした。

 初戦の大混雑が凄まじかった…という話を聞いていたので早めにやってきたのだが、やはり対策は立てられているようで、車両の増結や駅員さんの増員などが行なわれていた。

 そんな中で、ある会話が聞こえてきた。

「そんなにワールドカップの混雑って凄いんですか」
「今はまだ空いているからいいけど、これからが大変なんだよ」

 どうやら、増員されてきた駅員さんと、初戦を経験した駅員さんとの会話なのだが、「さすが茨城のローカル線だなぁ」と思わせてしまうノンビリとした会話だった。
 思わず私なんかは「オイオイ…」なんてツッコミを入れようかな…って思ってしまった。

 20分位が経過しただろうか。
 ようやっと電車が入って来た。

 とりあえず、今回も窓際の座席を確保し、今か今かと出発のその時を待っていた。

 その後も人が数多く乗って来て、朝のラッシュのような混雑具合だった。

 いよいよ、電車が発車する…というアナウンスがあり、電車のドアが閉まった。

 さて、最終戦はどんなドラマがやってくるのだろう…。
 そんなことを思いながら電車が動き出した。

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 お昼を食べてなかった私は、水戸駅で駅弁を買う事にした。
 洋風の幕の内弁当とお茶。
 しかも、一口ゼリーのデザートまで入っている。

「もし座れなかったらどうしよう…」と不安もあったのだが、何とか座れたので、電車の中で食べることにした。

 同じ景色でも、弁当を食べながらだとまた心無しか違って見える。
 そんな一時の時間を弁当を食べながら過していた。

 そして、食べ終わった後の昼寝。

 いつの間にか「睡魔」に襲われていて、深い眠りに入ってしまった。

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 寝ている間にも電車は着々とカシマスタジアムに向かっていた。

 気付くと、既に鹿嶋市の近くまでやってきていた。

 途中の駅でもやはり何組かのグループが電車に乗ってきた。
 中には、友達と待ち合わせでもしているのか、ホームに座り込んでボーッとしている人もいた。

 今回は、たまたま日本人が多く乗っているせいか、ハイテンションな人も少なく、平穏な時間が過ぎ去っていて、カシマスタジアムの臨時駅に到着した。

 ほぼ全員が電車から降りる中、私はまた今回も鹿島神宮駅まで乗ってようやっと到着した。

 改札を降りると今度はクロアチア代表サポーターがハイテンションで大騒ぎをしている。

 何人かのグループで歌を歌っていたり、また牛の形をした人形を持って騒いでいる人達もいたりと、電車の中の穏やかさとはうって変わって騒々しいほどの雰囲気を感じた。

「やっぱワールドカップはこれじゃなくちゃ…」

 そんな気持ちになりながら写真を撮ったり、騒いでいるのを遠回しに眺めていたり…と雰囲気を楽しんでいたのである。

「さて、そろそろスタジアムに向かおうか…」

 と思っていた私だったが、その前に一つだけ見ておきたいイベントがあった。

「『あの虹をわたって』を2002人で一緒に歌おう」
 という「虹プロジェクト」の話を偶然新聞で見つけ、「見てみたいな…」とふと思っていた。

「虹プロジェクト」というのは、日本と韓国、それぞれ1001人づつが一緒に「あの虹をわたって」を歌うというもの。

 もともと、鹿嶋市に住んでいる主婦4人が作った曲が、口コミなどで広まり、それが韓国でも紹介され、今回韓国での開催地の一つ、西帰浦(ソギポ)市との交流が深まっている中で、今回鹿嶋市の「あの虹kids合唱団」と、西帰浦西初等学校の子供達が一緒に歌うということになった。

 その瞬間を見ようと「門前町イベント会場」に行ってみることにした。

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 どうやら、地元ミニFM局の番組と連動しているらしい。
 レポーターらしき女性が司会といった形でいろいろと説明(前説?)をしている。

 午後4時、オープニングテーマ曲が流れ、番組がいよいよ始まった。

 スタジオでのトークの後、どうやらイベント会場が呼ばれる段取りらしい。

 レポーターの方が一通り説明した後、ステージでは、「こんにちは」とか「ありがとう」といった言葉を韓国語やカシマスタジアムで試合を行なう国の公用語でボランティアの人がボードを出し、紹介をしていた。

 その後、実際に韓国西帰浦西初等学校の生徒たちと中継で結び、日本語とハングル語であいさつなどの会話が行われていた。

 そして、いよいよ「あの虹をわたって」の日韓両国の合唱が始まった。

 一番は鹿嶋市の子供達。
 二番は西帰浦市の子供達。
 最後は一緒に…。

 そんな順番で歌が会場はもちろん、試合が行なわれるカシマスタジアムでも映像が流れた。

 ボランティアの人達も含め、約700人の参加と、1001人には到達できなかったけど、この日のために準備を進めてきた人達と練習をしてきた子供達のひたむきさを見て、ジーンとくるものがあった。

「夢はきっとかなう」

 そんな思いをひしひしと感じながら、日韓両国の合唱が終わった。

 その後も、子供達の歌声が会場全体に響き渡っていた。

 「あの虹kids合唱団」の歌声が続く中、私は門前町イベントを後にした。

 スタジアムに行こう!!

 チケットは持って無かったのだが、やはり会場の雰囲気だけでも味わおうと思い、スタジアムに向かうことにした。

 鹿島神宮駅からスタジアムまではシャトルバスもあるのだが、「ワールドカップへの道」というネーミングの通りがあったので、そこを歩いてみることにした。

 上に大きなサッカーボールが置いてあるゲートをくぐると、しばらくはなだらかな坂が続く。

 そして、目の前には日本の国旗の他に、カシマスタジアムで試合が行なわれる6ヵ国の国旗が飾ってある。

 それを眺めながらひたすら歩く。
 ようやっと平坦な道へとやってきた。

「ワールドカップへの道」とは言っても、単に国道を歩いているだけなのだが、途中小学生の絵が飾ってあったり、イベント広場では、やはりスタジアム周辺と同じくフェイスペインティングコーナーなどがあったりと賑わいを見せていた。

 しばらく歩いているうちに、ようやっと「カシマスタジアム」という標識が見えるところまでやってきた。

 と、そこで信号が赤だったので信号待ちをすることに。

 目の前にはコンビニがあるのだが、やはり、サッカー観戦者で賑わっていた。

 しかも、店頭でも代表グッズなどが売られている様子。
そんな光景を眺めながら待っていたのだが、一向に青になる様子が無く、少しイライラしてきた。

 周囲でも同じような感想を持った人が多く、
「早く信号赤にならないかな…」っていう感じだった。

 そんな中、ある外国人と日本人が一緒のグループが仲間同士で写真を撮っていた。
 そして、いつの間にか、近くにいた警備員さんと一緒に写真を撮りだしていた。

 警備員さんも突然のことで驚きの表情があった。
「仕事を全うしなきゃ…」っていう気持ちと、写真を撮られるうれしさとがあって複雑な思いなのだろう。

 思わず近くで見ていて笑ってしまった。

 ようやっと信号が青になり、道路を渡ると目の前にはカシマスタジアムの大きな建物が見えて来た。

 カシマスタジアムから道路を隔てた反対側に「交流広場」があるのだが、その一角に、100m以上にわたって「屋台」が並んでいる。

 日本のお祭りには必ずある「縁日」。

「ワールドカップ」という世界のお祭りの真っ最中、そこだけが何となく「日本のお祭り」という独特の雰囲気を醸し出していた。

「焼そば」や「お好み焼き」のソースの匂い、「焼きイカ」の香りなどが風に乗って漂ってきた。

 その匂いをかぎながらふ「number」という雑誌にサッカージャーナリストの金子達仁さんが書いているコラム「熱病フットボール」の中で紹介されていたことを思い出した。

 しかも、「カシマスタジアムでしか味わえない」という内容のものであり、「えらく日本的な」光景がたまらなく嬉しいという「熱い」気持ちが伝わってくるものだった。

 当然、鹿島アントラーズの試合の時にも同じ場所で売られているし、私なんかはこれが「いつもの光景」だと思っていた。

 しかし、この一見「当たり前」だと思われる光景が実は「カシマスタジアム」でしか見当たらなかった…
というのが不思議な気持ちだった。

 実際に何軒か歩いてみた。

 とりあえず、5時を過ぎたばかりの頃だったのでまだ空腹とまではいってなかった。

 そこでふと目にしたのが「焼き鳥」だった。

 隣の屋台では「牛ステーキ」まで売られていた。
 しかし、ビールを片手に持っていたのでやはり私の中では食べたい欲望が膨らんでいった。

 しかも、あの「焼き鳥」を焼いている「煙り」が辺りに充満していて、余計に食欲を誘ってきていた。

 早速セットになっているものを買ってきて近くの芝生で、ビールを飲みながら焼き鳥を食べていた。

 ちょうどこの日も暑かったのでビールが喉に心地良い感じだった。

 で、スタジアム周辺を眺めていると「チケット譲って下さい」と書かれたボードを持った人達が目立っていた。
 やはり、イタリア代表の人気のせいなのかな…。
「必死さ」というよりは「悲愴感」を感じる。

 かと思えば、東南アジア系の人達が「チケット買う?」なんてやっている。
 持っている人はやはり持っているんだね…。

 試合開始が近付いてきたところもあるのだろう。少し場所を替えてみるとふと「フェイスペインティング」コーナーがあって、この日もテントの中は人で一杯だった。

 そして、上半身裸で、しかも、顔や胸のあたりには、クロアチアのチームカラーである「赤」と「白」のまだら模様をペイントしている高校生らしき人達がいて、何だか微笑ましい気持ちになってきた。

 そんな光景を眺めながら試合が始まるのを待っていた。

 そして、試合開始時間の6時が近付いてきた。

 また場所を移動し、スタジアムが見えるところにちょっとした「丘」があり、今度はそちらに移動して左耳には「ラジオ」の実況中継。
 そして、右耳は「スタンドからの歓声」を聞きながらじっくりと「イタリアvsクロアチア」戦を「音で楽しんでみよう」と思ってスタンバイしていたのである。

 いよいよワールドカップも残り2試合となってしまいました。
 まず、今日は3位決定戦が行なわれ、トルコ代表が3ー2で韓国代表に勝ち、その結果トルコが3位、韓国が4位となりました。

 試合の内容については他の人達が詳しく解説されているかと思われますので触れませんが、一番感動したのは、試合終了後、韓国代表の選手たちと、トルコ代表の選手たちが仲良くグランド1周をしていたことですね。

 そして、韓国代表サポーターがトルコ国旗を掲げてそれに応える…というシーンがありました。

 3位決定戦とは言え、テレビを見ていてジーンときてしまいました。

 いよいよ明日は決勝戦が横浜で行なわれ、1ヶ月にわたるワールドカップが本当に終わってしまいます。

 何だか寂しくなってしまいますね。

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 茨城ファンクラブが1ヶ月にわたってお送りしている「ワールドカップ旅行記」もあと2回で終わりを迎えようとしています。

 最初はもっと短い期間の日記となる予定だったのですが、書いていくうちに長くなってしまいました。

 サッカーに興味のある方もそうでは無い方も「ワールドカップ」の雰囲気を少しでも感じていただければ幸いです。

 それでは残り2回始めていきたいと思います。

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 午後18時。キックオフの時間を迎えた。

 道路を挟んでスタジアムの歓声を聞きながらイヤホン越しにラジオの中継に耳を傾ける。

 周囲をみわたすと、やはり同様にチケットを持っていない人達がスタジアム方向に向かって芝生に座っていた。
 横では家族連れがやってきていて、お弁当を食べている姿を目にする。

 スタジアム近辺に住んでいる人達なのかな。

 でも、「サッカー」が生活に根付いているような感じがして微笑ましい光景だった。

 近くでは、子供達が段ボールを使って上から滑っているシーンもあって、「私にもああいう時代があったな…」なんてちょっとだけノスタルジーを感じてしまう。

 クロアチアゴール裏に近い場所にいるせいか、クロアチア代表がチャンスの時には歓声が、そしてピンチになると「ブーイング」が聞こえてきた。

 音で楽しむサッカーの試合。

 これもなかなか面白いな、とふと思うようになってきていた。

「写真撮ってもらえますか」

 突然声をかけられた。

 見ると男性2人と女性1人のグループ。

 肌の色からどうやら東南アジアからやってきた人達らしい。
 やはり、サッカーが好きなんだろうけどチケットは手に入らなかったけど、雰囲気だけでも味わいたい…という「思い」で鹿嶋までやってきたんだろうな…。

 照明でライトアップされていたカシマスタジアムをバックに写真を撮った。

 そしてまた芝生に座って試合に耳を傾けていた。

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 前半を終わって0ー0。
 ハーフタイムを迎えた。

 周囲を歩いてみるとまだ「チケット譲って下さい」
というプラカードを持った人達が目に付いた。

 気持ちはわかるけど、もう諦めた方が良いのでは…。
なんて思いつつ、また歩いてみる事にした。

 近くの公園では10人以上の外国人グループがテレビを置いて、そして携帯いすに座って試合を観戦していた。

 また、他にもガードレールに座って試合の雰囲気を味わっている人達も数多くいた。

 中には記念撮影をしている人達までいた。

 また、ユニフォームやバッジなどを売っている露店もあり、そこにも人だかりができていた。会場の外でも「お祭り」をその人なりに楽しもう…というそんな気持ちを感じることができた。

 そして、後半が始まった。

 実は、前半の時に芝生に座っていて気付いたのだが、屋台のお店の裏側にテレビが置いてある。最初、働いている人達が見るために置いてあるのかな…と思っていたのだが、どうやら、机やいすがあって、一般の人も楽しめるようだ。

 そのお店で「もつ煮」を買い、後ろに回ってテレビで試合を楽しむことにした。

 早速、もつ煮を食べながらのテレビ観戦となった。

「あのぁ、良かったらこれ食べて下さい」
 ふと後ろで声をかけられた。

 どうやら、私が写真を撮ったあのグループの女性だった。

 私が振り返ると、そこには焼きおにぎりとフランクフルトを手渡された。

 実は、私はそれほどお腹が空いている訳では無かったのだが、せっかくなのでいただいて食べることにした。

 試合の方は前半とは違ってスリリングな展開になっていた。
 イタリアが先制点を挙げると、クロアチアが同点に追い付こうと怒濤の攻撃を展開する。

 そして、ついに同点に追い付いたところで後ろから大歓声が聞こえてきた。

 スタンドのクロアチアサポーターだった。

 ふと後ろを見ると、私と同じようにテレビを観ている人達がいた。
 その中にはイングランド代表のレプリカを着た外国人サポーターもいて、テレビの前には10人以上の人達がいつの間にか集まっていた。

 そして、同点に追い付いて5分もしないうちに今度はクロアチアが逆転する。

 またクロアチアサポーターからの大歓声が聞こえてきた。
 その一方で、私の反対側で座って観ていたイタリア代表のレプリカを着た2人組はがっかりした様子だった。

 その後は、イタリア代表が必死に同点に追い付こうとしているが、ロスタイムの審判の微妙な判定があったり、またシュートがポストに当たったりと不運な面もあって結局2ー1でクロアチアが勝った。

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 試合が終わり、最後に花火が鳴った。
 夜空を鮮やかに飾り、フィナーレを迎えた。

 足早に鹿島神宮駅に向かう人達がいる中で、クロアチアサポーターが大声で歌い、騒いでいた。私も、その中に入って一緒に騒いでいた。

 つい3日前にはアイルランドサポーターが騒いでいる同じ場所で今日はクロアチアサポーターと一緒になって騒いでいる私がいた。

 肩を組み、見知らぬ人達の中で一体感を味わっていた。
 そして、彼らの記念撮影の中にも加わっていた。

 日本人が「クロアチア」と叫んでいるのになぜかクロアチア人が「ニッポン」と叫んでいる。そんな独特の雰囲気の中、

「コングラッチュレーション(おめでとう)!!」

 という声がどこかしらか出ていた。
 どうやら日本人からのようだった。

 あちこちで聞こえる歓喜の中、あるクロアチアサポーターと抱き合ってしまった。
 初戦でメキシコに負け、もし今回イタリアに負ければ予選突破が難しくなるだけに本当に価値のある勝利だっただけにうれしさもひとしおなのだろう…。

 そんな嬉しさと興奮がひしひしと伝わってきた。

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「これで最後なので誰か買う人はいませんか」

 帰りの電車を待っていた時、そんな声が聞こえてきた。
 どうやら親子のようだった。

 見るとケースには焼そばやフランクフルトなどがあり、どうやら屋台で売っていたその残りを全てさばこう…といった雰囲気のようだ。

 しかも、値段は割り引いているようだ。

 私はさすがにお腹が一杯で食べられるような状態では無かったのだが。

 ふとそれを見ていて「終わってしまったんだな…」という寂しさを覚えた。

 ワールドカップは決勝戦まで続くのだが、茨城での試合はこの日で最後。
 何だかいつの間にか夏休みが終わってしまった時のような気持ちになっていた。

 いよいよホームに入り、電車に乗った。
 たまたま横に座った高校生が参考書を読んでいるのを眺めながら、さらにその気持ちが強くなった。

 そして、ドアが閉まり、水戸に向け電車がゆっくりと走り出していった…。

(第3部 完)

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 「ワールドカップ体験記」いかがでしたでしょうか。

 最初は、この半分くらいで終わるかな…と思っていたのですが、いざ書いていくとこれがまた書きたいことがいろいろとあって頭の中がまとまらないことが結構ありました。

 本来であればもっと的確な表現で書ければ良かったのですが、なかなか上手くいかないことも多く、そこは私の拙さかもしれません。

 そんな中で最後まで読んでいただいた方々には本当に感謝したいと思います。ありがとうございました。

(茅根康義)

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