あの虹を渡って~ワールドカップ体験記【第一部】

 20年後に書いたまえがき

 今からちょうど20年前、2002年6月は日韓ワールドカップが開催された時期でもあります。
 韓国との共催になった関係で、茨城県立カシマサッカースタジアムでの試合は予選3試合のみでした。
 そんな中、私の友人がカシマスタジアム開催の「ドイツvsアイルランド」戦のチケットを入手していて
実際に現地で観戦できることは決まっていました。
 他の2試合は現地観戦はできませんが、どうせなら3試合を全部現地に行こう!ということでパブリック
ビューイング、スタジアム内での観戦、スタジアム外での体験と違ったテーマで3試合を体験したレポート
から改めて20年前の思い出を振り返ってみたいと思います。

 2002年のまえがき

 虹のむこうに 誰がいるの
 どんな声で 話してるの
 どんな歌を うたってるの
 山を越え海を渡って 今きこえてくる
 軽やかな足音 やっと会えるんだ

 この虹を渡って 君を迎えにいこう
 広い青空の下で同じ風を感じよう
 あの虹を渡って 明日を探しにいこう
 きっと夢はかなうよ 見つけよう輝く未来を

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 この曲は鹿嶋市に住む主婦の方々が中心となって、
ワールドカップ、そして日韓交流を目的に作られた
「あの虹をわたって」というタイトルの曲です。

「虹プロジェクト」と名付けられ、昨年のコンフェデ
レーションズカップや、今回のワールドカップのイベ
ント等で歌われています。

 今回のワールドカップ茨城会場の3試合について
自分の目で見たことを中心に様々な角度からレポート
を書いてみようと思っています。

 で、タイトルを決める時にふと思い出したのでした。

「あの虹をわたって」
 しかも茨城発の曲。

 少しでも「ワールドカップ」という「お祭り」の気分
を味わってもらえれば幸いです。

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 第1部 アルゼンチンvsナイジェリア戦
     6月2日 日曜日

 いつも仕事だとすっきりと起きられないのに今日は
朝5時30分には目が覚めた。

 部屋のカーテンを開けるとすでにピーカンの青空が
広がっていた。

 ワールドカップが茨城にやってくる。
 それだけでも興奮ものだ。

 もちろんチケットなど持っていない。でも「お祭り」
の雰囲気だけでも味わいたい…。
 きっとテレビ観戦では味わえない「何か」があるはず。

 そんな衝動にかられ、鹿嶋に出かけることにした。

 朝8時30分には水戸駅に到着。
 鹿島臨海鉄道に乗り換えようとホームを移動した。

「まだ空いているだろう…」
 と思っていた私が甘かった。

 アルゼンチンのレプリカを着ている人達を始め、
大勢の人達が電車が来るのを待っていた。

 私も列に並んで待っていた。

 とふと横から「川淵」とか「岡田」といった名前
が会話の中から出て来た。

 どうやら茨城県のサッカー協会関係者のようだ。

 先月茨城県出身でメキシコオリンピックで銅メダル
を獲得した時の往年の名ディフェンダーであり、そして
鹿島アントラーズの初代監督でもあった宮本征勝さん
の告別式の話をしていた。

 Jリーグ各チームからの花輪をはじめ、大勢のサッ
カー関係者や鹿島アントラーズの選手などが来ていた
…という話をしていた。

 更に「シニア」の全国大会の話などが聞こえてきた。

 そういった話題に聞き入っているうちに電車がようや
っと入って来た。

 鹿島臨海鉄道は私は今まで乗った事が無かった。
 開業当初は「第三セクター」で脚光を浴びたが、車
の発達で乗客が減少していた。

 私はたまたま乗ることができたが、満員電車の
ような混雑具合で、車内はいろんな人達の会話で
賑やかだった。

 ワールドカップの会場である鹿島はどうなっている
のかな…。と思いつつ、いよいよドアが閉まり、水戸
を後にした。

 えっと、第2話に入る前に…。

 今日は日本代表の初戦対ベルギー戦が埼玉スタジアム
で行なわれました。

 結果は2ー2で引き分けに終わったのですが、茨城
出身のFW鈴木隆行選手がスターティングメンバーで
出場し、後半14分に小野選手からのパスに走り込み、
バランスの崩れた体勢からシュートを打ち、見事に得
点を挙げることができました。

 しかも、今回のワールドカップでの日本代表初ゴー
ルとなりました。

 今年に入ってゴールが無く、辛い日々の連続だった
とは思いますが、今回のゴールで「自信」を取り戻し、
更に活躍してくれるといいな…と思います。

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 前置きはここまでにして…。
「あの虹をわたって~茨城にW杯がやってきた」の第
2回目をお送りしたいと思います。

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 水戸駅を過ぎ、しばらく電車で走ると景色が見渡す
限りの田んぼとなってきた。

 私にとっては初めての鹿島臨海鉄道。
 しかも「単線」なので途中で電車待ち合わせなども
ありのどかな雰囲気だった。

 しばらくボーッと眺めていたが、少し飽きてきたの
で水戸駅の売店で買った茨城新聞を読んでいた。

 しばらく新聞を読んでいただろうか…。

「バティ~バティ~」という声がした。

 ふと横を見ると、アルゼンチンのレプリカユニフ
ォームを着ているアルゼンチン人のグループが私の
読んでいる新聞を指差している。

「え、何?」っていう顔で彼らを見る私。

 どうやら、彼らは新聞のバティストゥータ選手を
見て応援歌を歌っている様子。

 そして、横に掲載されていたイングランドのベッカ
ム選手の写真を見て「ブ-」。(ブーイング)

 しばらくすると、そのグループは他の人が読んでいた
「サッカーダイジェスト」という雑誌を奪い取り、アル
ゼンチン代表選手の記事を見つけては応援歌を歌って
いた。

 時には歌を歌いながらずっと陽気に喋り続けていた。
 きっとアルゼンチンから茨城にやってきて、工場か
どこかで働いている人なんだろうな…。

 それだけ彼らにとっては「ワールドカップ」が楽しみ
なんだな…っていうことを実感した。

 中には、携帯を借りて電話までしている人までいた。

 電車はいつの間にか見渡す限りの田んぼからいよいよ
「ビニールハウス」があちこちに見える景色に変わった。

 何を栽培しているのだろう…。
 あれが「メロン畑」なのかな。

 中がよく見えなかったのが唯一残念だった。

 様々な景色を楽しみながら電車に乗ること約1
時間20分。
 ようやっと左手にカシマサッカースタジアムが
見えて来た。

 そして、飛行船がそのスタジアム周辺を動き回っ
ていた。
 あれは「報道関係」なのかな。

 そうこうしているうちにいよいよカシマサッカー
スタジアム駅に到着。

 試合開始4時間以上前にもかかわらず大勢の人達
が降りていて、スタジアムに向かって歩いている。

 周りには様々なテントが立ち並び、世界各国の料理
やアトラクションなどの「わいわい交流広場」があり、
すっかりお祭り一色になっていた。

「ここで降りようかな…」とも考えたのだが、まずは
鹿嶋市の市内をじっくりと歩いてみよう…と思い立ち、
お隣の「鹿島神宮駅」まで行ってみることにした。

 水戸から約1時間30分かかってようやっと鹿島
神宮駅に到着した。

 試合開始まであと4時間もあるせいか、東京方面
からやってくるJR線もまだそれほど多くは無かった。

 しかし、それはほんのプロローグに過ぎなかった。

 階段を降り、改札を出たとたんに様相が一変。
 駅前は人、人、人…。

 普段は静かであろうこの街がお祭り騒ぎになっていた。

 改札から出てくる人達を待ち構えているマスコミ。
 アルゼンチン、ナイジェリアのレプリカを着て大騒ぎ
しているサポーターなどなど。

 いよいよワールドカップなんだな…っていう実感が
涌いて来た。

 私は、ついうれしくなって駅で買った使い捨てカメラ
片手に様々なサポーターの写真を何枚か撮っていた。
 そして、何人かの外国人にカメラを手渡され、記念
撮影のシャッターを押していた。

 驚くことに、アルゼンチンサポーターとナイジェリア
サポーターが仲良く騒いでいるところ。
 何となく、サポーター同士の衝突ばかりニュースなど
で聞くせいか、ピリピリとした空気を想像していただけ
に和やかな雰囲気に驚いた。

 でも、これが日本でのワールドカップの特徴になる
のかもしれないな…という気持ちにもなった。

 サポーターが騒いでいるところには常にマスコミの
カメラなどが殺到している。

 中にはテレビ番組が書いてあるマイクを持った女性
レポーターがレポートしているシーンにも遭遇し、
「これがテレビに出てくるんだな…」と思っていた。

 鹿島神宮駅からはシャトルバスで行くか、もしくは
「ワールドカップへの道」というルートを通ってスタ
ジアムに向かうかどちらかになる。

 スタジアムまで歩こうかな…とも思ったのだが、
まずはもう一つのイベント「門前町イベント」の会場
まで歩いてみることにした。

「門前町イベント」会場までのなだらかな坂道を上っ
ていくと、駅前の騒々しさとは一変してひっそりと
している。
 坂道は整備されていて、道の真ん中に小川が流れて
いるせいか、ほんの少しだけ「清涼感」を感じること
ができた。
 浜風が吹いているとは言え、朝からの快晴のせいか
かなり暑くなってきたので心地よい気持ちになった。

 坂道を登り切るとサッカーボールの形をした石像が
あって、家族連れが写真を撮っているほのぼのとした
雰囲気を感じつつ、いよいよ「門前町イベント」の会
場に到着した。

 会場に入ってまずびっくりしたのは「ゴミ箱」
 こういうところの「ゴミ箱」はたいがいブリキで
できたものになりがちなのだが、段ボールの箱にな
っていて、こういうところにも「環境」に対する配
慮まで考えているんだな…っていう感じがした。

 また、すいかやメロンなどの茨城の名産品を売って
いるところや、ワールドカップの記念品を売っている
ところなどがあって、ステージでは様々なイベント
が行なわれている。

 シェラスコというブラジルの牛肉ステーキを食べな
がらまずはステージでの催し物を見ていた。

 常陸太田市の天神ばやしの演奏や、民謡などが行な
われていた。

 民謡は茨城を代表する「磯節」や、ここ最近の民謡
でもある「つくば山唄」や「磯原節」が歌われていた。

 今まで「磯節」をじっくりと聞く機会が無かったの
で、今回偶然とは言えちょうど良い機会になった。

 駅まで戻って会場まで行こうかな…とも思ったのだ
が、せっかく鹿嶋まで来たので、鹿島神宮に久々に行
ってみようと思い、早速、そこから移動して鹿島神宮
に行ってみる事にした。

「店は汚いけど味は最高だよ。寄ってってよ」

 鹿島神宮までの参道(大町通り)を歩いていると、
「そば屋」さんの看板を見かけた。

 何軒かあるということは、そばが名物なのかな…
とは思ったものの、まだ食事には早い時間だったの
でそのまま通り過ぎた。

 そして鹿島神宮の大鳥居をくぐって、中に入った。

 ワールドカップ試合当日だから賑やかかな…と思
って来ていたものの、参拝客はまばらでひっそりと
した感じだった。
 それでもアルゼンチンのレプリカを着た観光客など
サッカー観戦と思われる人がやはり訪れていた。

 鹿島神宮と言えば、私にとっては小学校の遠足で
住友金属の鹿島工場の見学の帰りに行った時以来で
ある。
 もっともあの時は夕方の時間帯で、しかも雨が降
っていて暗かったのであまり良い印象が無かった。
 しかし、今回は晴天なので早速奥まで歩いてみる
ことにした。

 笙の音色が聞こえている中を「茅の輪めぐり」と
いうのが最初目に付いた。

 どうやら水無月である6月に目の前のある大きな
「茅の輪」をくぐると12月までの半年の間は無病
息災で過ごす事ができると言う。

 早速、くぐってみることにした。

「茅の輪めぐり」には「決まり」があって、まず左
側をくぐった後また戻ってきて右側をくぐり、また
戻った後に最後左側をくぐる…というもの。

 一応、決まりに従って無病息災を祈りつつ、茅で
できた直径2メートル位の大きな輪をくぐった。

 参道を更に歩いて行くと、鹿の群れを発見。
 もともと「鹿」というのは「神のお使い」として
位置付けられていて、「神鹿」と呼ばれている。

 奈良公園の鹿は、鹿島神宮の鹿がルーツとされ
ているが、今鹿島神宮にいる鹿は逆に奈良公園か
らやってきた鹿なので、「同じ鹿」と言える。

 ただ、奈良公園のように「放し飼い」ではなく、
きちんと「柵」があって、その外から観光客が
見られるようになっている。

 えさについては、やはり100円で売っているの
だが、奈良公園のような「鹿せんべい」ではなく、
「にんじん」というところが違う。

 家族連れがやって来ていて、えさであるにんじん
を鹿に与えていた。
 鹿もにんじんが来ると寄ってくるので、子供がそ
れにおびえながらえさを与えているのが印象的だった。

 その後で、水戸黄門でおなじみの徳川光國公が1週
間ずっと家来に掘り続けるように指示を出したが、結
局石を運び出すことができなかった…といういわれの
ある「要石」や「御手洗(みたらし)」という池など
を散策。

 参道は並木道になっているため日陰になっていて
鳥のさえずりだけが聞こえてひっそりとした雰囲気だ
った。

 途中の茶店でラムネを飲んで休憩しながらしばらく
ノンビリしていた。

 茶店でもやはり「ワールドカップ」関連グッズが
置いてあり、やはり地元だということを実感する。

 参拝も終わり、スタジアムに向かおうとも思ったの
だが、今回は歩いて「パブリックビューイング」が
行なわれる鹿嶋市役所に行ってみることにした。

 鹿嶋市役所までの通りは、カシマスタジアムで
試合のある6カ国の小旗は掲げられているものの、
日曜日の昼間にしてはやけに人通りも少なく、お店
も閉まっているところが多く、やはり「フーリガン」
対策なのかな…っていう気がした。

 スタジアムや駅の周辺だけが盛り上がっている感じ
がしてきた。

 それでも国道を始めとする道路は整備されていて、
ごく普通の日曜日の昼間っていう雰囲気だった。

 途中、道に迷いながらもようやっと鹿島市役所に
到着。
 いよいよ、ここで茨城開催の最初の試合を観戦す
ることになる。

 興奮と緊張の中、あらかじめ用意されていたビニ
ールシートに陣取り、試合が始まるその「瞬間」を
待つ事にした。

「そう言えば、お昼食べてないけど何か食べ物売って
いるかな…」

 本当だったら鹿嶋市役所に行くまでの間に用意すべ
きだったのだが、市役所に辿り着くのに精一杯でつい
コンビニを素通りしてしまった。

 正直、何も無かったらどうしよう…っていう不安が
あった。

 しかし、ジュース類とおにぎりや焼きそば、鳥の
唐揚げなどが売られていたので正直ホッとした。

 これで、ビールが売っていれば…と思ったものの、
さすがにそれだけは無かったのでちょっと残念。

 まずは、腹ごしらえ…とばかりにその3つを買った。
後は「まろ茶」のペットボトル。

 しかも、おにぎりはカシマスタジアムで売っている
のと全く同じ大きめのもので、ほんの少しだけスタジ
アムにいる気分を味わえた。

 試合開始までにまだ1時間近くあるせいか、観客は
それほど多くは無かったものの、やはりこちらにも
マスコミ各社の取材が来ていた。

 中には、レポーターの人が来ていて、近くの人に
インタビューをしているようだ。

 試合開始時間が近付くにつれて、観客の方も増え
てきて大分ビニールシートの方にも人が増えて来て、
今日は暑いこともあって市役所の建物の陰にいて
少しでも涼しく観戦しようとする人などがいて賑やか
になってきた。

 そして午後2時30分にキックオフを迎えた。

 大画面にもカシマスタジアムの映像が流れ、いよ
いよ始まった。
 とたんに拍手が送られた。

 前半から豪華メンバーのアルゼンチンが果敢に
ナイジェリアゴールに攻めるも、ナイジェリアの
守備に阻まれてなかなか得点に結び付かない。

 そして、ナイジェリアの素早いカウンターで
アルゼンチンゴールに襲いかかる。

 前半はどちらもあまり無理はしない…といった
展開で、0ー0で終了した。

 アルゼンチンのシュートの度に「お~」とか
「あ~」とかの声は出ていたが、あまり盛り上がる
…といったところまではいかず、全体的には静かな
感じだった。

 ところが、後半になって様子が一変する。

 アルゼンチンが前掛かりになってきたせいか、周囲
の歓声が段々大きくなってきたが、逆にナイジェリア
のカウンターで「ヒヤリ」となるシーンもあった。

 激しい攻防の中、後半18分にベロン選手のコーナー
キックをバティストゥータ選手がヘディングシュート
で押し込み先制点を挙げた。

 これで一気に周囲が盛り上がって来た。
 後ろからは「紙吹雪」まだ飛んで来た。

 そして、スタジアムに入れなかったアルゼンチンサ
ポーターの喜びの声に包まれていた。

 更に、試合終了までの間に何度かチャンスがあった
が、結局得点には結び付かなかったものの、1ー0で
アルゼンチンがナイジェリアに勝った。

 試合終了後喜びを爆発させ、アルゼンチンサポーター
が陣取るその場所だけは異様な盛り上がりを見せていた。

 またそれを煽るかのようなマスコミのカメラもその
場に集中していた。

「アルゼンティーナ!!、アルゼンティーナ!!」

 試合が終わってからもしばらくの間、声援が鳴り止ま
ない状態が続いていたのであった。

(第一部 完)

【茅根康義】

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